北欧・バルト三国で活躍する日本人研究者の紹介

渡邊 毅 Watanabe Takeshi

オーフス大学 客員研究員


2020年4月からオーフス大学で客員研究員としてデンマークに滞在している渡邊毅さんにお話を伺いました。


デンマークではどのような研究をされていますか?

患者さんが期待感を持って治療に臨むと治療効果が高まったり、副作用を過度に気にしていると強い副作用が出てしまうことがよくあります。このような現象をそれぞれプラセボ効果、ノセボ効果といいます。これらが歯科治療に与える影響とそのメカニズムの研究を行なっています。


なぜプラセボ効果、ノセボ効果に興味を持ったのでしょうか?

日本では歯科医師免許取得後、歯科診療に従事してきました。特に虫歯や歯周病などの目に見える歯科疾患が無いにも関わらず口腔内に痛みや違和感を持つ患者さんに対して、低用量の向精神薬を用いた治療を行なってきました。その際、 診療で自分が話した説明が患者さんの治療効果に大きな影響を与えることを実感したことが興味を持ったきっかけです。また、このような症状を有する患者さんは「説明もなく歯を削られてからずっと痛みが残っている」など以前の歯科に対する不満を訴えることが多く、歯科診療における痛みの感じ方や、症状の残存にもプラセボ効果やノセボ効果の影響が大きいのではないかと考えるようになりました。


現在の所属機関を選択した理由は何ですか?

留学を決意した後、プラセボ効果、ノセボ効果を研究している世界中の研究者に、カバーレターとCVを添付してメールを送りました。返事が返ってこなかったり、ポスドクは募集していないという返事がほとんどでしたが、現在所属しているグループの先生が興味を持ってくださいました。その後、オランダの学会でグループのメンバーと会って直接話せたことも大きなきっかけとなりました。


研究を行う上での一番の課題を教えてください。

直近では来年度以降も現在のグループでの研究を続けるための助成金獲得が課題です。研究者として自分の研究を世の中に伝えるための論文執筆も大切ですが、まずは自分の研究を続けていくための資金を安定して獲得できるようになることが必要だと考えています。将来的には、生化学、経済学、心理学を学んだ自分の経験を活かし、あらゆる視点から歯科医療に生じる問題にアプローチできるPIになりたいと考えています。


以前、JSPSの特別研究員(DC2)として東京医科歯科大学に在籍されていましたが、特別研究員としての経験はデンマークでの経験に役に立っていますか?

DC2時は、生化学、分子生物学的な研究を行なっていました。現在、心理学のグループに在籍しておりますが、プラセボ効果やノセボ効果の大きさに対する患者さんの遺伝子多型の影響を検討することを考えています。DC2時に学んだことを自分の強みとして、異分野の研究者と議論していくことで、学際的な研究が可能になると考えています。


日本と比べて、デンマークの研究環境について、どのような印象をお持ちですか?

コロナ禍の影響もあり、在宅で作業することも多いので、単純な比較は難しいですが、デンマーク人の同僚は皆、休暇を大切にしている印象です。その分、予定や計画はしっかり立てているので、一緒に作業するために、自然と自分も計画通りの仕事を心がけるようになりました。また、デンマークの特性というよりはグループの特性かもしれませんが、文献検索は図書館司書さんに、システマティックレビューのスクリーニングの作業はアシスタントの方にお願いすることが出来ます。心理行動科学部に所属していますが、現在オーフス大学歯学部と共同研究を行なっており、今後は、生物医学部とも共同研究を行う予定です。お願いした作業内容は自分でも把握、確認はしますが、それぞれの分野が得意な方との協力体制が取りやすく、研究を進めやすい環境です。


最後に、これからデンマークで研究を始めようと考えている研究者にメッセージをお願いします。

デンマークには首都のコペンハーゲンの他にも、私のいるオーフスやオーデンセなど魅力的な街が多くあります。入国されましたらぜひ連絡ください。お会いできるのを楽しみにしています! デンマークの方は皆さん英語は流暢ですが、アパートの契約書、電話の自動音声、買い物など日常生活ではデンマーク語に触れることが多いので、早めにデンマーク語を勉強しておくと困らないかもしれません。私も現在勉強中です。


(2020年11月)

略歴

2008年 一橋大学経済学部経済学科卒業

2008年 東京医科歯科大学歯学部歯学科3年次学士編入学

2014年 東京医科歯科大学医歯学総合研究科 (DDS-PhDコース)単位取得退学 (2011年- 2013年 JSPS特別研究員DC2、2018年博士(歯学))

2016年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業

2016-2017年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯科臨床研修医

2017-2018年 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科心身医療外来 医員

2018-2020年 同上 特任助教

2020年- オーフス大学心理行動科学部 Visiting Researcher (上原記念生命科学財団リサーチフェローシップ)

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