野口 惇 Makoto Noguchi
ヘルシンキ大学 University of Helsinki

現在、フィンランドではどんな研究をされていますか?
組織の再生能力を司る幹細胞の機能制御機構について研究しています。特に、骨格筋幹細胞における機械的刺激の感知機構とエネルギー代謝調節機構を統合的に理解し、幹細胞の機能がどのように調節されるかを明らかにしたいです。
現在の研究分野に興味をもったきっかけを教えてください。
博士課程での実験から、重篤な筋損傷に対しても骨格筋幹細胞が組織を元通りに修復する様子を目の当たりにしました。組織の大きさ・形のキープレイヤーである幹細胞による組織リモデリングのドラマに強く惹かれたのがきっかけです。
フィンランドでの所属機関を選択した理由は何ですか?
潤沢な人的・資金的リソースのもと、発生生物学や幹細胞生物学を基盤にした特色ある研究が数多く実施されているからです。また、充実した共通機器を備えており、各種オミクス解析やイメージングを高い自由度で行えるからです。
フィンランドの研究環境について、日本と比べてどのような印象をお持ちですか?
学術研究組織が高度にオーガナイズされている印象です。研究室にスタッフや秘書が多く、共通機器室や事務の各部門に専門職員が配置されており、研究室内外の人々が有機的かつフレキシブルに働くための設計が充実しています。また、個々の意見を平等に汲み上げる雰囲気やシステムが整っています。ワークライフバランスがアカデミアにも広く浸透しており、公平でオープンな研究環境づくりへの努力に見習うべき点が多いと感じています。

フィンランドでの生活はいかがですか?日本での生活と比べて暮らしやすいと感じること、逆に苦労していることなどあればぜひ教えてください。
挑戦心や好奇心に肯定的で失敗に寛容な雰囲気や合理的かつ効率化されたシステムの充実から、趣味や家族の時間が多く取れています。小ぢんまりとした国なため都会の喧騒が時折恋しくなりますが、身近な自然に小さな幸せを感じ生活しています。移民に平等に機会が与えられるフィンランド語学校・職業訓練学校 (無償+補助金付き) のおかげで、日本での仕事を辞め帯同した妻も現地社会との繋がりを実感しており、二人で心豊かに暮らせています。
最後に、これからフィンランドで研究を行いたいと考えている研究者にメッセージをお願いします。
ポスドク就活を始めた博士課程在籍時、自分の業績の乏しさとアプライ先の研究レベルの高さに不安を感じたこともありましたが、今は新たな研究分野で楽しく過ごしています。異なる言語や文化の中で戸惑うこともありますが、フィンランドはのびのび成長できる環境であると感じます。興味関心に身を任せて「おりゃっ」と新天地に飛び込んでみるのもなかなかありですよ。
略歴
2018年 日本大学生物資源科学部生命化学科卒業
2020年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士前期課程修了
2023年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程修了 博士(農学)号取得
2023年 東京大学大学院農学生命科学研究科 農学特定研究員
2023年 ヘルシンキ大学 生物学・環境科学部、生命科学研究所HiLIFE ポスドク研究員
2024年 JSPS特定国派遣研究者